君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第5章 andante
「何だ、お前かよ…」
薄ら期待をしていた俺は、電話越しに聞こえて来た、聞き覚えのある声に、ガックリと肩を落とした。
「何だって何よ…、ちょっと酷すぎなーい?」
「悪い悪い、ちょっと考えごとしてたから、つい…」
「ふーん…。あ! またあの子のこと考えてたんでしょー? ほら、一目惚れの彼♡」
「ち、ちげーわ!」
って、咄嗟に否定してみたものの、実際は図星で…
俺は人知れずため息を落とした。
「で? こんな時間に何の用だった?」
仕事の話にしては、思わずスマホを耳から遠ざけたくなるくらい騒々しいし、何より気になったのは…
「別に大した用でもなかったんだけど〜」
そう!
さっきからずっと気になってた、その口調だ。
「お前どこいんだよ?」
「え、今? 今丁度ドラクイ仲間の子達と飲んでて〜」
やっぱりか…
松本が週末ドラッククイーンだってことは知ってるから、今更驚きもしないが、普段は滅多に耳にすることのない松本の喋り口調に、嫌悪こそしないが、若干引いてしまう。
しかも、コイツ相当酔っ払ってる。
「でね、一緒にどうかな〜、って思って〜」
「はあ? 今から?」
電話越しに言われて、壁の時計を見上げると、時刻はもう間もなく深夜0時を越えようとしている。
いくら翌日が休みでも、この時間に出かけるのは考えもんだ。
何しろシャワーを浴びた後に着替えをするのは、面倒極まりない。
「せっかくだが、今日はやめておくよ。あ、明日の晩ならどうだ?」
それなら時間的ゆとりもあるし、俺の気持ちにも少しは余裕が持てる。
そうだ、今の俺には、酒でテンションの上がった松本の相手をしている余裕は、全くない。
俺の頭の中は、大野君が何故声を失ったのかという疑問と、それを超える容量の自責の念で溢れ返っているんだから。
「ちょっとだけでも無理?」
尚も誘って来る諦めの悪い松本に、
「悪い…、今日は本当に無理なんだ…」
詫びを入れた俺は、翌晩会うことを約束して、電話を切った。