君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第5章 andante
自宅に帰り、モアッとした空気が冷えるまでの間、シャワーを浴びた。
一日外回りでかいた汗を洗い流すと、身体がサッパリするのと同時に頭もスッキリしてくるような気がして…
さっき全く酔えなかった分を取り戻そうと、冷蔵庫にストックしてあったビールを片手に、ソファーの上に胡座をかいた。
プルタブを引いて、洗い物の面倒を避けるため、缶に直接口を付けた。
「うんめ…」
キンと冷えたビールが、喉元を通り過ぎる度に、身体の火照りが取れていくような気がした。
あっという間に空になった缶をローテーブルに置き、ソファーにゴロンと横になる。
そうすると、決まって脳裏に思い浮かぶのは、彼の笑顔と、そしてあの透き通った歌声。
彼と初めて会ったあの日以来、ずっとこの調子だ。
しかし今日はやけに彼の顔が鮮明に浮かぶ。
あ、そうか今日彼に会ったんだっけ…
あの雨の日以来、俺の心に芽生えた疑問の答えと共に、ずっと探し続けていた彼に、漸く俺は会えたんだ。
理由こそ聞かなかった…いや、聞けなかったけど、彼があの奇跡とも思える声を失っていたことは、俺にとってもショックではあったけど、それでも彼と会えた喜びの方が大きかった。
それに思った以上に、俺が大胆な人間だってことも知れたし…、って俺、馬鹿じゃん…?
俺はソファーの上で勢い良く身体を起こすと、両手で頭を抱え込んだ。
「何やってんだよ、俺は…!」
大野君に自分の気持ち(と言っても告白をしたわけではないが)も伝えたし、もう一度会いたいと、連絡先だって渡した。
でも名刺には、俺の名前と電話番号が書いてあるだけで、アドレスなんてのは一切書かれていない。
口がきけなくなった彼に、電話をしてくれ…なんて、配慮が足りないにも程があるってもんだろ…
「ああ…、最悪だよ…」
絶対嫌われた…、そう思って頭を乱暴に掻き毟った丁度その時、テーブルに置いたスマホがけたたましく鳴り響いた。
まさか…?
俺は咄嗟にスマホを手に取り、画面を見ることもなく耳に当てた。