君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第26章 番外編☆dolce
不安だった。
またあの時みたいに声が出なかったら…
自分の想いも口に出来ず、でも誰にも心配かけたくない一心で笑顔を浮かべながら、伝えたくても伝わらないもどかしさに唇を噛み続けた日々…
悔しくて、一人泣き疲れて眠るまで泣いて…
あの日々にはもう二度と戻りたくない。
俺は喉の奥に異物感を感じながらも、深く息を吸い込むと、
「しょ……さ……、俺…ね…」
絞り出すように言った。
良かった…
酷く掠れてはいるけど、声が失くなったわけじゃなかった。
俺は内心ホッと胸を撫で下ろした。
そしてゆっくり身体を起こすと、咄嗟に俺の背中を支えようと伸びて来た翔さんの手を、やんわりと拒んだ。
「ほら、また…」
俺が言うと、翔さんは「えっ?」と言ったきり、意味が分からないとばかりに首を傾げた。
「俺ね…、翔さんがずっと俺と一緒に暮らすこと望んでるって、ちゃんと分かってた」
でも俺は翔さんに求められる度、それを拒み続けた。
決して翔さんとの暮らしを望んでなかったわけじゃない。
ただ俺は…
「翔さんの負担にはなりたくなかった…。だからアパートの場所も教えなかった…」
教えれば、誰よりも俺を大切に思ってくれる翔さんのことだから、きっと俺が部屋に入るまで、じっと俺の部屋を見上げ続けるだろうから…
「負担…って…、俺は一度だって智のことを負担に思ったことなんて…」
「…うん、知ってる。でも俺は…翔さんの優しさに甘えることしか出来ない自分が、嫌で嫌で堪んなかった…」
だから…
翔さんと対等に…、なんてことはとても無理だけど、せめて翔さんに負担をかけなくて済むような…、そんな自分になれるまで、って…
ずっと考えていた。