君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第26章 番外編☆dolce
猫舌の俺なら確実に火傷しそうな熱さのコーヒーを、翔さんは何の躊躇もなく口に運んで、またテーブルに戻した。
そして一呼吸ついてから漸く、
「俺…、別に怒ってないから…、いや、やっぱ怒ってんのかな…」
まるで自問自答でもするかのように呟いて、またコーヒーのカップを口に運んだ。
「ねぇ、俺ってさ、そんなに頼りない? 恋人に家の場所も教えて貰えない程、俺って恋人として失格なの?」
違う…、そうじゃない…
俺は首だけを横に振って答えた。
「じゃあどうして…? そんなに近くにいたのに、どうして教えてくれなかったの? 俺が聞かなかったから? そんなに俺に知られたくなかったの? 恋人なのに?」
矢継ぎ早の質問に、元々出来損ないの俺の頭が混乱して…
違う、そうじゃない…、俺はただ…
否定しようと思うけど、それも出来なくて…
俺はただただ首を横に振り続けた。
そうすることが、余計に翔さんの怒りを増長させると分かっていた。
でも、ちゃんと伝えなきゃ、って…
自分の言葉で、ちゃんと翔さんに伝えなきゃ、って…
焦れば焦る程、喉の奥が貼り付いてしまったように引き攣れて、声を出すことすら出来なくて…
「俺のこと、揶揄って楽しんでたの?」
違う…
「それとも、俺のこと面倒臭い奴だと思ってた?」
違う…、そんなこと一度だって思ったことない…
「毎晩毎晩、頼まれもしないのに店まで迎えに行って、鬱陶しいとか思ってたわけ?」
違う…、違う…
「だったらそう言ってくれたら良かったのに…。そしたら俺だって…」
『違う…、俺は…、俺…は…』
突然、喉の奥に何かが詰まったような…、呼吸もままならない息苦しさを感じて、俺は抱えていたリュックを床に落とし、両手で自分の喉を掴んだ。