君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第26章 番外編☆dolce
二人して足を棒の様にして松岡先生の勤務する病院に立ち寄り、挨拶を済ませた俺達は、本店でもある雅紀さんの店へとやって来た。
本当は松岡先生とゆっくり…、と思っていたけど、タイミング悪く忙しい時間だったらしく、大した話も出来なくて…
それでも久しぶりに、あの変わらない笑顔で、“坊主”って呼ばれて、大きな手で頭をゴンと叩かれて…
たった一年しか経ってないのに、何だかとても懐かしく感じた。
「お腹空いてない?」
雅紀さんが厨房の冷蔵庫を覗きながら、俺を振り返ることなく言う。
「うーん…、特に空いてないけど、作ってくれるなら食うよ?」
「くく、じゃあ…、普段はお客様のためだけにしか奮わないけど、今日は特別智の為だけに奮っちゃいますか(笑)」
最初っからそのつもりだったくせにね?
そう言うことは一切口にしないのが、雅紀さんらしいっていうか…、良いところなのかもな…
ま、俺にしてみりゃ、押し付けがましくなくて、気楽ではあるんだけどさ(笑)
「出来たら持っててやるから、向こうで待ってたら? 疲れたでしょ?」
冷蔵庫から出した食材を調理台に並べ、雅紀さんが言うから、
「うん…、そうしようかな…」
お言葉に甘えさせて貰うことにする。
小上がりになった座敷に座布団を並べ、その上にゴロンと横になった。
無いとは分かっていながらスマホのメールを確認して、若干の寂しさを感じながら、両腕を枕替わりに天井を見上げる。
厨房からは、雅紀さんがフライパンを振っている音と、香ばしい匂いが漂って来て…
「腹…減ったな…」
珍しく自分の腹が空腹を訴えていることに気付く。
…けど、睡魔にはやっぱり勝てなくて…
俺はプライバンを振るリズミカルな音を子守唄代わりに、瞼をそっと閉じた。