君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第26章 番外編☆dolce
「俺もだよ?」
雅紀さんが俺の背中に回した手で、トントン…と、まるで小さな子供でもあやす様に俺の背中を叩く。
「雅紀さん…も…?」
「うん、俺も今の智と同じ。毎回ここに来る度、めっちゃ緊張してる」
俺の頭に、コツンと顎を乗っけて、雅紀さんが小さく息を吐き出す。
いつだって俺達の前では笑顔を絶やさない雅紀さんが、今どんな顔をしているのか、俺には想像もつかない。
でも、俺と同じだと言った雅紀さんの気持ちだけは…、俺にも何となく…だけど分かる気がする。
雅紀さんは雅紀さんで、きっと俺が想像も出来ないくらい苦しんだだろうから…
ニノを弟としてしか見られなかった自分に…
ニノの気持ちを受け止めてやれなかった自分に…
今更後悔したところで、もうニノはいないのに…
過去を悔いたところで、何も変わりはしないのにね?
「何か…俺達馬鹿みたいだな?」
「何…で?」
「理由は…良く分かんなけど、何か馬鹿みたいだ」
「何だよそれ…、意味分かんねぇよ(笑)」
俺が見上げると、雅紀さんは少しだけ困ったように笑って、今度は俺の頭をポンと叩いた。
「よし、あと一息だ。一気に登るぞ?」
「え…っ? あ、ちょ、ちょっと…」
雅紀さんが俺の手を引っ張り、駆けるように石階段を登って行く。
俺はその後を、引き摺られるまま、何度も躓きそうになりながらも、着いて行く。
足はガクガクで、もう膝を曲げるのも億劫なのに、息だって上がりまくってるのに、不思議と苦しさは感じなかった。
寧ろ、階段を一段上がるごとに、気持ちが凪いで行くような、そんな気がした。