君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第26章 番外編☆dolce
「分かったってば…。ほら、早くしないと遅れるよ?」
行ってらっしゃい、と翔さんの背中を押し、何度も俺を振り返る翔さんに手を振る。
翔さんが見せを出てからもずっと、何度も…
そうして漸く翔さんの姿が見えなくなった頃、入れ違いに雅紀さんが店のドアを開いた。
「元気してた?」
さっきまで翔さんが座っていた場所に腰を下ろし、懐かしそうに目を細める雅紀さん。
つか、直接顔を合わせてないだけで、電話では何度も話をしてる筈なのに、“元気か?”って…、変なの(笑)
「なんか、ちょっと見ないうちに太ったんじゃない?」
「そ、そんなことねーよ…」
実際、体重とかは変わってないし…
もし雅紀さんの目にそう映るんだとしたら、それは確実に翔さんのせいだ。
俗に言う“幸せ太り”ってやつな?(笑)
「雅紀さんこそ、ちょっと見ないうちに老け込んだんじゃない?」
俺が冗談ぽく言うと、
「え、嘘? マジで?」
突然慌てたように自分の顔を両手で撫で回す雅紀さん。
俺の冗談をすぐ真に受けるところは、以前と全く変わらない。
「嘘だよ、変わってないよ、何にも…」
「そ、そう? 良かった…」
「そんなことよかさ、潤さんは? 一緒じゃないの?」
「潤は仕事だよ」
あ、そっか…
翔さんが仕事なら、潤さんも当然…
「でも夜には店来るって言ってたし、その時に会えるんじゃないかな…」
「そっか…」
潤さんとは、それこそ電話で話すことも滅多にないし、最後に顔を合わせたのは…、店オープンする前だから、随分と会っていない。
ま、特別用事もないから当然と言えば当然のことなんだけど…
「智、飯は?」
「食ったよ」
「そっか、じゃあそろそろ行こうか?」
「うん…」
俺はグラスに残っていたコーヒーを一気に飲み干すと、コートと一緒にしてあったキャップを被った。