君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第26章 番外編☆dolce
「もう少しかかるから、少し寝たら? 眠いでしょ?」
繋いだ手を解き、俺の頭をそっと撫でる。
「うん…。着いたら起こして…ね…?」
何でもお見通しの翔さんだから、俺もあえて逆らうことはせず、翔さんの肩に頭を預けると、さっきからひっきりなしに襲ってくる睡魔に身を任せた。
「智? そろそろ起きて?」
電車の揺れが心地良過ぎたせいか、少しのつもりがしっかり寝入ってしまった俺は、軽く身体を揺すられて瞼を持ち上げた。
「着いた…の…?」
瞼を擦りながら、視線を車窓へと向けると、見覚えのある風景がそこには広がっていて…
どうしてだか懐かしさが込み上げて来る。
まだ一年しか経ってないのに…
「あ、そう言えば駅弁は? 楽しみにしてたでしょ?」
車じゃなく、電車で…って決めた時に、“駅弁は旅の醍醐味”と、翔さんが楽しみにしていたことを思い出した。
「ごめん…、俺が寝てたから…」
「いいよ、駅弁は帰りにでも楽しめるから」
「でも…」
あんなに楽しみにしてたのに…
「こら、そんな顔しないの。駅弁を食うことよりも、こうして智といられる時間の方が、俺にとってはよっぽど大事なの」
うん…、それは俺も同じ。
それでも、せっかくの二人で過ごす時間を、睡眠に費やしてしまうのは、やっぱり申し訳ない気がして…
呆気なく睡魔に負けてしまう自分自身が恨めしくなる。
なのに落ち込む俺に、翔さんは鼻先がぶつかるくらいに顔を寄せると、
「それにさ、こんな時でもないと、智の寝顔ゆっくり見られないしね?」
そう言って俺の唇に自分のそれを押し当てた。
「え、ちょ、ちょっと…」
思いがけないキスに、咄嗟に辺りを気にする俺に、翔さんはクスクスと肩を揺らし、再び唇を重ねて来る。
普段は真面目を絵に書いたような人なのに、変なところで大胆だから焦るよ…