第26章 番外編☆dolce

俺の髪を、翔さんの少し大きな手が不器用に撫でる。

｢店のこともあるし、本当に無理は…｣

｢もう…、しつこいよ？ 俺、これでも“店長”だよ？ だから、翔さんはホテルの予約でもしといてよ。ね？｣

｢分かった。飛びっきり良いホテル予約しておく｣

そう言って俺の額に唇を押し付ける翔さん。

乱暴なまでに強引なキスをしてきた翔さんとは、まるで別人のような優しいキスに、擽ったささえ感じる。

｢あ、ねぇ、時間…、大丈夫？｣

翔さんの昼休憩は一時間。

営業所までは、走って戻っても五分はかかる。

本音を言えば、もう少しこうしていたいけど、そろそろタイムリミットだ。

｢大丈夫…、と言いたいところだけど、午後から上田と一緒に得意先回んなきゃいけないし…｣

翔さんが腕時計と睨めっこをしながら、深い溜息を一つ落とす。

俺は翔さんの背中に回した腕を解くと、少しだけ背伸びをして翔さんの頬に自分の唇を押し当てると、名残惜しさを堪えて笑顔を向けた。

｢行って？｣

｢うん…、じゃ…、また後で…｣

｢待ってる…｣

夜になればまた会える…、そう自分に言い聞かせながら、何度も俺を振り返る翔さんに向かって手を振る。

そして翔さんの姿が見えなくなった頃、俺はコンクリートに預けてあった背中を起こし、ダウンのポケットに捩じ込んであったキャップを被った。

｢さて、と…。ちょっと早いけど、俺も店行くかな…｣

あ、その前に雅紀さんに電話入れとくか…

客商売にとって週末はかきいれ時でもあるから、休暇の連絡は早めに入れといた方が良い。

まあ、雅紀さんのことだから、ＮＯとは言わないだろうけどね。

何せ俺が帰るのは、一年ぶりなんだから…