君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第26章 番外編☆dolce
いつもよりも若干薄手のコートに、いつもよりも小さいリュックを背負って、駅の改札口で翔さんを待つ。
いつも翔さんと待ち合わせる時は、翔さんの方が先に着いてることが多いけど、今日は俺の方が早い。
本社での用を済ませるためだとは分かっていても、俺にとってはちょっとした旅行気分で…
深夜、仕事が終わってアパートに帰ってからも全然眠れず、気付いたら朝になってた。
まるで遠足前の子供みたいに、窓辺にてるてる坊主なんかぶら下げてさ…(笑)
その効果もあってか、何かと雨に見舞われることが多い俺だけど、珍しく天気は良い。
ただ、空気の冷たさだけは、どうにもならなくて…
俺はコートの前をきっちり襟元まで閉めると、ベンチに座って自販機で買ったコーヒーの缶を両手で握り閉めた。
五分…くらいだろうか、そうしていたのは…
階段を駆け上がる音が聞こえたような気がして、俺は缶コーヒーをポケットに入れると、ゆっくり腰を上げた。
元々の交通の便の悪さと、漁は勿論のこと、水産加工を生業にする人が多いこの町では、電車を利用する人は少ない。
通学時間を過ぎたこの時間は特に…
だから、姿を確認する必要もなく、階段を駆け上がる足音が翔さんの物だと分かる。
「え、さと…し? 何で…、早くない?」
ほらね?(笑)
「いつから待ってたの? 電話してくれれば良かったのに…。寒かっただろ?」
俺の顔を見た途端に矢継ぎ早の質問をするのは、最近になって気付いた翔さんの癖。
多分…だけど、以前は俺の声が出なかったこともあって、俺に合わせてくれてたんだと思う。
それが今ではどうだよ…
俺に答える間を与えることなく、次から次へと質問を投げかけてくるんだから、笑えるよな(笑)