君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第4章 strascinando
黙り込んでしまった雅紀さんを前に、俺は財布の中にそっと忍ばせた、しわくちゃになった小さな紙を思い出していた。
櫻井さんの名前が記された名刺だ。
発作的にゴミ箱に投げ入れたものの、やっぱりどうしても捨てられなくて、出かける間際になって拾った物だ。
捨てた、なんてのは全くの嘘。
一度胸の底に芽生えてしまった“好き”って気持ちは、そう簡単には消せやしない。
嘘をついたのは、俺だけが幸せになってもいいのかっていう、単純にニノに対する罪悪感から…
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、雅紀さんはプッと吹き出すと、俺の鼻の頭を指でピンと弾いた。
ツンとした痛みが鼻の奥まで走り、俺は涙目になりながら雅紀さんを睨みつけ、両手で鼻を抑えた。
「はは、ごめんごめん(笑) って言うかさ、智本当に下手だよね、嘘つくの。さっきから鼻ヒクヒクしてるよ?」
言われて、ニノも同じことを良く言っていたの思い出した。
「智が嘘ついてるかどうかなんて、鼻を見ればすぐ分かるんだよ?」
…って、意地悪に笑いながら、鼻を思いっきり摘まれたりさたっけ…
「本当は捨ててないんでしょ? それくらい好きなんでしょ、その人のこと」
それまで絶やすことのなかった笑顔が、一転真剣な表情に変わった。
「だったらさ、自分の気持ちに正直になっても良いんじゃない?」
『無理だよ』
「なんで? 和のことがあったから? 和に申し訳ないとか思ってる?」
その問いかけに、俺は静かに頷いた。
お互い本気の愛し合ってた訳じゃない。
でも、一緒に暮らす中で、ぽっかり空いた隙間を埋め合って来たのは事実で、全てを満たすことは出来なくても、そこにはちっぽけではあるけど、“愛情”ってやつは存在していた筈だし、そうじゃなかったら俺達一緒にはいなかっただろうし…
だからこそ、ニノがいなくなったからと言って、自分だけの幸せなんて考えちゃいけないような気がして…
それに…