君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第4章 strascinando
『あの人、ノンケだし…』
サラッと書いて、メモ帳を雅紀さんの前に突き出す。
「え、マジ…で…?」
俺とメモ帳とを交互に見る雅紀さんの顔が、一瞬にして苦笑に変わった。
『多分』
直感でしかないけど、俺がそう思ったんだから、多分間違いはない筈。
「で、でも、智はその…“タチ(攻め)”なわけじゃん? だったら…」
確かに、ノンケの人にとっては、男を“抱く”行為に比べれば“抱かれる”方が、よっぽど嫌悪感みたいなモンは少なくて済むかもしれない。
雅紀さんがそうだったように…
“でも”、なんだよな…
「あの…さ、まさかとは思うけど…、その“まさか”なの?」
図星を指された俺は、項垂れたまま一つ息を吐き出した。
これまでニノ以外にも何人かと関係を持ったことはあったけど、ただの一度だって、自分が抱かれたいと思ったこともないし、ソッチの経験だってゼロだ。
なのに櫻井さんに腕を引かれた時、この腕に抱かれたい、って思っちゃったんだよな…、まだ数える程しか会ったこともない人に、何故だか分かんないけど…
「そっか…、だとしたらちょっとハードル高いかもね?」
そうだよな…
元々女しか愛せないノンケの人が、男相手に勃つか…って言ったら…、難しいだろうな…
『やっぱ無理…』
「諦めるの? 好きなのに?」
違う、そうじゃない。
好きだから…、だからこそ傷付きたくないし、あの人を傷付けたくない。
だったら、今よりももっと気持ちが大きくなる前に、スッパり諦めた方が良い。
「そっか…。智がそう思うなら仕方ないか」
『ごめん…』相談にまで乗って貰ったのに…
雅紀さんに頭を下げ、今度こそ…と腰を上げた俺を、再び雅紀さんの手が引き止めた。
訝しむ俺に、雅紀さんの笑顔が向けられる。
つか、嫌な予感しかしないんだけど…?
「ねぇ、帰るつもり? バイトしに来たんでしょ?」
マジか…、俺騙されたんじゃねぇの?
でも…、今の俺じゃまともな働き口もないし、仕方ないか…
うん…、仕方なかったんだ。
だって一度は消した筈の火、再び灯すことになるなんて…想像もしてなかったから…
『strascinando』〜完〜