君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第24章 tempestoso…
首筋かかる吐息と、鼻先を掠める香水の匂い…
そのどれもが懐かしくて、愛おしくて…
俺は背中に回した手で、ジャケットを握り締めた。
そんなことしたら皺になっちゃうのに…
「会いたかった…。ずっとこうしたかった…」
喉の奥から絞り出すような、翔さんの声が微かに震えているように聞こえる。
俺も…、俺だってずっと会いたかった…
会いたくて、会いたくて…
胸が潰れそうなくらいに、苦しかった…
なのに、『翔さん…』と、名前を呼ぼうとしても、喉の奥に詰まった物が邪魔をして、上手く声が出せない。
もうすっかり治ったもんだと思ってたのに…
声を失くし、誰にも言えない闇を心の奥に抱えて、苦しみ藻掻いていたあの頃の記憶が、ふと脳裏を過ぎる。
いやだ…、あの頃にはもう二度と戻りたくない!
「俺…も…」
翔さんの厚い胸に顔を埋め、俺はやっとの思いで呟いた。
でも翔さんには届いていなかったみたいで…
ジャケットを掴んでいた手を解いた。
翔さんが、俺の口から発せられる次の言葉を待っていたとも知らずに…
俺は緩く握った拳で翔さんの胸をトンと叩くと、それまで胸に埋めていた顔を静かに離し、小さく首を横に振った。
「さと…し…?」
不安そうな…、でもどこか訝しむような口調で、翔さんが再び俺をその胸へと引き寄せる。
「はな…して…」
「嫌だ、離さない」
今度はしっかり俺の声に反応する翔さん。
なんだ…、聞こえてんじゃん…
じゃあどうしてさっきは聞こえないフリなんてしたの?
「ねぇ、どうし…て…?」
「えっ…?」
「どうして今…なの…? 俺…、まだ自分の足で一歩も歩けてない…。なのにどうして…」
それがたとえば奇跡のような偶然だったとしても、俺にはまだ翔さんと会う資格なんてないのに…
「どうして…」
そんなに優しく抱き締められたら俺…、もうその手を離せなくなるじゃんか…