君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第4章 strascinando
騙されたと知って帰ろうとした所を、奥の座敷まで強引に腕を引っ張られた。
櫻井さんといい雅紀さんといい、今日は何だかやたらと腕を引っ張られる日だ…
向かい合わせに座った雅紀さんは、ナイスなタイミングでバイト君が運んで来た麦茶を一気に飲み干すと、俺に向かって爽やか過ぎる笑顔を向けた。
さっきからずっとそうだ、この人はどうして笑っていられるんだろう…
義理とはいえ、弟のニノが死んでから、まだ一ヶ月しか経ってないのに、どうして何も無かったかのように笑っていられるのか…
やっぱり、戸籍上は兄弟とはいえ、実際は血の繋がらない他人だから…なんだろうか…
それにしたって俺には全く理解出来ない。
俺なんて…
「ねぇ、俺の話聞いてる?」
ぼんやりとテーブルに頬杖をつき、片手でペンをクルクル回す俺に、テーブルを指で叩いて訴える雅紀さん。
聞こえてるよ。
喋れなくなっただけで、耳はちゃんと聞こえてるし…
言い返したくてもそれも叶わないから、視線を合わせることなく頷きだけで答えた。
あえて視線を合わせないのは、例えそれが偽りだったとしても、笑ってる顔を見たくなかったから…
「でね、俺考えたんだけどさ…、色々大変じゃん? その…ほら、智今そんなだしさ、それに…」
何が言いたいんだろう…
俺はメモ帳を開くと、それまで指で弄んでいたペンを走らせた。
『何が? 俺が喋れないから?』
無言で差し出したメモ帳を見るなり、雅紀さんが笑顔の上に困惑の色を重ねた。
そして俺の分のお茶まで飲み干すと、今度は俺の手からペンを取り上げ、メモ帳に何かを書き始めた。
つか、耳はちゃんと聞こえてるっつーの!
「はい…」
俺の手元に戻って来たメモ帳には、決して綺麗ではないけど、特徴的な文字がギッシリと並んでいて…
俺は半ばうんざりしつつも、それに目を通した。