君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第4章 strascinando
出勤予定だつたバイト君がバイクで事故ったとかで、急遽ヘルプ要請のかかった俺は、半強制的に渋々バイト先へと向かった。
気が重いと足取りまで重くなるのを感じながら、ニノと半分ずつ金を出し合って買った自転車のペタルを漕いだ。
刺すように降り注ぐ陽射しに、肌がヒリヒリと焼けるように痛い。
額から流れた汗が目に染みる。
行きたくねぇ…
どうしても、って頼み込まれてOKしたは良いけど、やっぱり安請け合いなんてするもんじゃない。
今更後悔したってどうにもなんないけど…
自転車を店の駐輪場に停めて、準備中のプレートがかかったドアを開く。
エアコンをガンガンに効かせた冷たい空気が、じっとりと汗をかいた肌には寒く感じる。
「あれ? 智さん?」
キャップを外し、カウンターの前を通り過ぎようとした時、突然声をかけられた俺は、声のした方を振り向いて驚いた。
お前、バイクで事故ったんじゃ…
口だけをパクパク動かすけど、当然相手には伝わらない。
俺はリュックの中からメモ帳とペンを取り出すと、何も書いてないページを開いて、そこにペンを走らせた。
スマホで文字を打つより、こっちの方が断然早いし、俺には向いてる。
要件を書いたメモ帳を、カウンターの中にいるバイト君に見せると、バイト君はポカーンと口を開けたまま首を傾げ、
「俺、この通りピンピンしてますけど?」
あっけらかんと言い放った。
はめられた…
バイト君が事故ったなんて嘘。
実際は、俺を呼び出すための口実。
俺はまんまと騙された、ってわけだ。
やってらんねぇ…
俺は外したばかりのキャップを再び被ると、踵を返して出口へと大股で歩を進めた。
ついさっきまで“入口”だった筈のドアに手をかけ、溜息を一つ落とした時、
「智? 来てくれたんだね?」
聞き覚えのある声に、ドアノブを捻る俺の手が止まった。
ゆっくり振り返ると、すぐバレるような嘘で俺を騙した張本人が、満面の笑みを浮かべて立っていた。