君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第4章 strascinando
…つか、俺ちゃんと伝えたよね?
声出ないんだって…
電話番号教えられても、今の俺に電話なんて出来る筈もない。
仮に電話出来たとしても、声一つ出せないってのにどうやって喋りゃいいんだ?
ハハ…、その時点で終わってんじゃん(笑)
俺は手の中で名刺をクシャッと丸めると、ゴミ箱に向かって投げ入れた。
俺から連絡を取らない限り、俺達は二度と会うこともない筈。
忘れよう…
櫻井さんのことは全部…、好きだって気持ちも全部纏めて忘れよう…
第一、今の俺に人を好きになる資格なんて、どこにもないし…
そうだろ、ニノ?
机の上に飾ったニノの写真に問いかけてみるけど、当然返事なんて返ってくる筈もなく…
俺は手だけを伸ばして、ベッドの上に無造作に丸めてあったニノが愛用していたタオルケットを取ると、ニノが良くしていたように、タオルケットを頭からスッポリ被った。
ずっと洗濯もしてないからか、ニノの匂いがまだしっかり残っている。
いい加減洗わなきゃって思うけど、ニノの匂いを消すことで、ニノがこの部屋に存在していたこと自体を消してしまうような気がして、結局洗濯出来ずにいる。
タオルケットだけじゃない、シーツだって、枕カバーだって…ニノが触れた物は全部…
ニノの匂いに包まれ、うとうとしていると、テーブルの上でスマホがブルッと震えた。
続け様に二度、三度と震えるスマホを手に取り、タオルケットにくるまったままで確認する。
表示されていたのは、俺のバイト先の店長で、ニノの義理の兄貴で…、ニノがずっと憧れ続け、俺と関係を持った後でも、想いを寄せ続けた相手…相葉雅紀の名前だった。
俺がこの世で一番信頼出来て、でも一番会いたくない相手だ。
あの日以来…ニノがこの世を去った日以来、こうして一日に何度か連絡をくれるようになった。
恋人…と呼んで良いのかは分かんないけど、ニノを亡くしたショックで、声を失った俺を心配してのことなんだろうけど…