君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第22章 subito
そんなある日、後片付けを済ませた店のカウンターに、雅紀さんが俺に一枚の大きな紙を広げて見せた。
「これ…は…?」
見た感じ、見取り図…というか、図面のような物にも見えるけど、それが何を意味するのかは、俺にはさっぱり分からなくて…
頭の上に無数の“?マーク”を浮かべ、首を傾げていると、
「二号店をね、智に任せようと思ってさ…」
雅紀さんが信じられない言葉を口にする。
当然俺の頭の上の“?マーク”はその数を増し…
「えっ…と、言ってる意味が分かんないんだけど…」
いや、言葉の意味は分かる。
でもどうして“俺”なのかが、さっぱり分からなくて…
図面に鉛筆で何かを書き込みながら、事細かに説明を始めた雅紀さんを横目に、
「いや…、無理だって…。ヤバいって…」
何度も首を横に振った。
すると雅紀さんがその手を止め、珍しく厳しい表情で俺を見上げると、俺に座るように促した。
「どうして最初から“無理”って決め付けるの?」
「だって俺…」
高校の勉強だってろくに出来なかったし、そんな俺に店の経営なんて…、とても出来っこない。
「そんなのやってみなくちゃ分かんないでしょ? それに、俺は今の智だから任せてみようと思ったんだよ?」
「今の…俺…?」
「そう、今の智なら、安心して任せられるかな、って…。潤も賛成してくれたし…、どう? やってみない?」
「潤さんが…?」
潤さんが賛成してるってことは、最初から俺に選択する権利なんてないじゃねぇか…
俺はフッと息を吐き出すと、
「分かったよ、やってみるよ…。けどさ、もし失敗しても文句言うなよ?」
雅紀さんの手から図面を取り上げた。
「うん、言わないよ。だって俺、信じてるから…。智なら絶対大丈夫だって…」
そう言って雅紀さんが俺の髪をクシャッと掻き混ぜるから、俺も小さく頷いた。