君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第22章 subito
目の前に、雨に濡れた潤さんの手が差し出される。
でも俺はその手を取ることなく顔を背けた。
「知ってたんだよね…?」
潤さんを責めたって仕方ない…て、頭ではちゃんと分かってるのに、
「知ってて黙ってたんだよね…? …噓吐き…」
口を着いて出るのは、潤さんを諫めるような言葉ばかりで…
次第に強くなる雨足に瞼を瞬かせる潤さんの顔が、悲しげに歪んでいるようにも見える。
「まさか松岡先生の奥さんが、翔さんが付き合ってた人だってことも知ってた…とか?」
「いや…、それは俺もさっき初めて知った…」
「そう…なんだ…」
もし仮に潤さんが知っていたとしたら、俺はとんでもない大馬鹿野郎になるとことだった。
そうとも知らず、翔さんとの間に起きたことを洗いざらい打ち明けてたんだから…
「どうして…? 知ってたなら、何で言ってくれなかったの…?」
「それは…」
普段は饒舌な潤さんが、珍しく言葉に詰まる。
きっと、潤さんには潤さんなりの考えがあって、実際には翔さんが結婚していなかったことを言わなかったんだと思う。
現に、俺達が別れてから、潤さんが翔さんの名を口にすることは殆どなかった。
いつまで経っても翔さんを忘れることが出来ない俺が、また翔さんを恋しがって泣くんじゃないかって思ってのことだと思う。
でもさ、そんなの優しさでも何でもないよ…
泣いたりしないし、知ったからと言って俺達の関係が元通りになるとも思わない。
それでも俺は…
「教えて欲しかった…」
翔さんが苦しんでいるなら…
ひとりぼっちで泣いているのなら…
俺が傍にいて抱きしめて上げたかった。
潤さんや雅紀さんが俺にしてくれたように、俺だって翔さんのことを…
「…ごめん。でも信じてくれ…。いつかは話さなきゃって…、ずっとそう思ってた。でもまさかこんな形で話すことになるとは、想像もしてなかったけど…」
潤さんの手が、悔しさからなのか、それとも別の理由なのかは分からないけど、キュッと強く握り締められた。