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君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】

第22章 subito


「結婚…したの?」

俺が聞くと、松岡先生は指輪の嵌った左手をヒラリとさせ、「まあな」と言って照れたように笑った。

「そう…なんだ…? いつ? いつ結婚したの?」

「先月だけど…、それがどうかしたか?」

だからか…。
これまで何度もこの診察室に訪れ、松岡先生とは対面してきた筈なのに、指輪の存在に気が付かなかったのは…

「ねぇ、相手の人って、もしかしてタブレットの待ち受けになってた人…?」

「え、ああ…、これのことか?」

松岡先生が机の片隅に置いたタブレットを引き寄せ、電源ボタンを押す。

するとそこに浮かび上がる、松岡先生と女性にこやかな笑顔で並んで写る画像。

「見せて?」

俺は松岡先生からタブレットを受け取り、自分のすぐ手元まで引き寄せた。

やっぱりそうだ…

あの時はチラッと見えただけだったし、今は画像自体が新しい物へ変えられているけど、そこに写っているのは、確かに同じ人物で…

「結婚したのって、もしかして彼女が妊娠したから…とか?」

内心、松岡先生の口から事実を聞くのが怖いと思いながらも、恐る恐る聞いてみる。

松岡先生は一瞬怪訝そうな顔をしたけど、すぐに頬と口元を緩め、やっぱり照れ臭そうに笑う。

そして、

「まあ…、そんなとこだな…」

そう言うと、微かに震え始めた俺の手からタブレットを取り上げ、元合った場所に戻した。

「もう…産まれたんだよ…ね…?」

違うって…、そう言って欲しかった。

そうすれば、俺の勝手な思い込みだって、笑って済ませることが出来るって思たのに…

なのに松岡先生の口から出たのは、

「今丁度三ヶ月を過ぎたところかな…」

俺が最も求めていなかった言葉で…

一度は晴れたと思った霧が、今度は更に色を濃くして再び俺の目の前を覆って行くのを感じた。

当然、俺の変化に気付かない松岡先生じゃないから、

「どうした…、顔色悪いぞ…?」

ゆっくり席を立つと、俺のすぐ隣まで移動して、俯いてしまった俺の顔を下から覗き込んだ。
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