君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第22章 subito
「…はよ…」
俺が声をかけると、雅紀さんはいつもと変わらない笑顔で、カウンター越しに俺にお玉を差し出してくる。
本当は眠たいだろうに…
「へぇ…、今日は豚汁か…」
どうりでいつもとちょっと違う匂いがしたんだ?
「うん、店の残り物入れただけなんだけどね」
そっか…、今日は店も休みだし、食材残しておいたところで廃棄処分になるだけだし…
こうすれば無駄にしなくても済むもんね?
俺は三人分のお椀に味噌汁を装って、ダイニングテーブルの上に並べた。
「そう言えば今日病院行く日でしょ?」
「うん、そうだけど?」
「いや、俺も一緒に行こうかな…と、思ってさ…」
「どうしたの、急に…」
松岡先生の病院に通い始めてから一年…
その間雅紀さんが俺の診察に着いて来たことは、一度もない。
それが急にどうして…?
「だって今日で最後なんだろ? だったら一応、智の保護者替わりとしてはご挨拶くらいしておかないと、と思ってさ…」
あ、そっか…
一年間通い続けた病院にも、今日が最後に行かなくても良くなるんだ…ってことを、俺はすっかり忘れていた。
「で、帰りにご飯でも食べに行こうかな、って…」
「三人…で…?」
潤さんは毎月一回、忙しい仕事の合間を縫って有給を取る。
俺を病院まで送迎するためだけに。
だから今日だって…
「潤さんも一緒…だよね?」
俺が聞き返すと、雅紀さんは少しだけ困った顔をしてから、炊飯器の蓋を開けた。
「そう…だね…、たまには三人で行こうか?」
炊き立てのご飯から立ち上る湯気で表情こそハッキリとは見えなかったけど、その声は少しだけ明るいような気がして…
『良かった…』
俺は雅紀さんから受け取った茶碗を、お椀と同じようにテーブルに並べた。
そして、それぞれの箸を、それぞれの場所に置き終えた時、寝惚け顔の潤さんがリビングのドアを開けた。
「…おはよ…」って…