君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第21章 loco
狭い店だ、智也さんの吐き出す煙は直ぐに視界を曇らせ、家庭用と変わらないサイズの換気扇なんて、全くその効果をなさない。
俺はすっかり泡の消えたビールを一口、口に含んでその苦味を味わってからゴクリと音を立てて飲み込んだ。
「俺、ずっと気になってたんです。普通とか普通じゃないとか…、どうして区別すんのかなって…」
「どういう…意味?」
松本が組んだ両腕をカウンターに乗せ、アルコールが入っているせいか潤んだ目で俺を覗き込む。
滅多にない事だが、その目が妙に艶っぽくて…、一瞬ドキッとさせられてしまう。
尤も、“友情”以上の感情は、松本に対して持ち合わせてはいないが…
「何て言うかさ…、上手く言えないんだけどさ…」
「うん、いいから言って?」
「付き合ってる頃智も良く口にしてたんだけど、“自分は普通の人間じゃない”って…」
俺は智からそう言われる度、お互い同じ“人”でありながら、何故“普通じゃない”って言うのか…、ずっと考えていた。
俺達は外見こそ違えど、同じように人として産まれ、同じように人として生きて来た筈なのに、どうして区別をするのか、って…
だって俺達は同じ“感情”を持つ人間なのに、って…
「でもそれってさ…」
「そうなんだよ…、分かるんだよ? でもさ、そんなのおかしくないか?」
同じなのに…
何一つ変わりはしないのに…
ただ異性が好きだから、同性が好きだからって…、そんな理由で普通だとか普通じゃないとか…、区別するなんて、俺には理解できない。
「男が男を好きになったら、それは“普通”とは違うのか?」
寝ても醒めても…
もう触れることも叶わないって分かってるのに、今でも智のことしか考えられないのは…
「智のことしか愛せない俺は“異常”なのか?」
「櫻井…?」
俺はもう…“普通の人”として生きることは許されないのか?
人を愛する気持ちに、普通も異常もありはしないのに…