君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第21章 loco
「もお…、潤ちゃんたらそんなに櫻ちゃんのこと虐めないの」
ついさっきまでの盛り上がりから一転…、急激に下降した俺のテンションを見兼ねてか、智也さんが助け舟を出してくれる。
…けど、“櫻ちゃん”て…
“翔ちゃん”とは呼ばれたことはあるが、“櫻ちゃん”は流石に初めてだよ…
「そりゃ、アタシのお気に入りの智ちゃんを泣かせたのは許せないわよ? でも別れるに至ったのには、それなりの理由があったわけでしょ?」
「ま、まあ…、それはそうなんですけど…」
「何があった… とか? そんな野暮なことは聞かないけどさ、だったら仕方ない…とは言わないけど、しょうがないじゃないの?」
智也さんが新しいジョッキにビールを注ぎ、俺の前に置き、空になったジョッキを下げる。
見た目は、どちらかと言えばワイルドに見えなくもないが、その身のこなしはやはり女性的だ。
「あの…、智は俺のこと何て…?」
今更そんなこと聞いたって何が変わるわけでもない。
でもどうしても聞きたかった。
「そうねぇ…、とっても真面目そうなのに、凄く面白い人だって言ってたかしら…」
俺が…、面白い…?
あまりに意外な答えに、俺は思わず首を傾げてしまう。
だって未だかつて“真面目”と言われることは多々あっても、“面白い”と言われたことは、ただの一度だってない。
「それに、一見何でも出来そうに見えるのに、実は凄く不器用なんだとも言ってたわね…」
「確かに…(笑)」
智也さんの言葉にウンウンと頷きながら、隣で松本がクスリと笑う。
まあ…、実際その通りだから否定はしないけど…
「それと…、多分ノンケだって…。だから自分とは絶対に重なり合わない運命なんだ、って…」
智がそんなことを…
「あの子、ちゃんと分かってたのよね…。所詮アタシ達みたいな人間と、櫻ちゃんみたいに真っ当な人生を歩んでる人とでは、どうしたって上手く行く筈ないってことを…」
智也さんがカウンターの中で酒瓶の並んだ棚に背を預け、吸い込んだ煙草の煙を吐き出した。
溜息と一緒に…