君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第21章 loco
こんなに笑ったのはいつぶりだろうかと感じるくらい、楽しくて…
酒が入っていたことは勿論だが、店の雰囲気がそうさせていたのかもしれない。
それに何より、変に気を遣う必要がないのが楽だし、自分を飾る必要だってない。
だからかな、松本の口調も気付けばしっかりオネェ調になっている。
で、そうなると当然昔話にも花が咲くわけで…
「そう言えばあの子どうしてる?」
不精髭の男…智也さんが、その大柄な身体には不釣り合いの小さなビールグラスを手に、カウンター越しに身を乗り出す。
「”あの子”って…?」
「あの子って言ったらあの子よ…。ほら、前に何度か潤ちゃんが連れて来たことがある、あの可愛い子いたじゃない?」
智也さんの問いかけに、松本が一瞬チラッと俺の方を見て、それからジョッキに残っていたビールを飲み干した。
「智だろ?」
えっ…?
思ってもない意外な名前に、俺の心臓がドクンと脈打つ。
「そうそう、智ちゃん。あの子好きな人がいるって言ってたじゃない? その後どうなったかなぁ〜って、ずっと気になってたのよね…」
「ああ、それなら上手くはいったよ、一応な?」
「一応って何よ…」
「一応って言ったら一応だよ。だって今はもう別れちゃってるし…。ね、櫻井?」
「え、お、俺…?」
突然話を振られ、顔を上げた拍子にジョッキがグラリと揺れる。
なのに松本は意に介すことなく、
「あれ? 散々智のこと泣かした挙句、捨てたんだじゃなかったっけ? 違った?」
巫山戯口調で言うと、意地悪くニヤリと笑うから、
「ち、違うし! そんなんじゃねぇし…」
俺もついついムキになってしまう。
つか、確かに泣かしはしたけど…、それは認めるけど、捨てたとか…さ…、ちょっと酷くないか?
寧ろ振られたのは俺の方だし…
まあそれも、原因を作ったのは、他でもないこの俺なんだけどさ…