君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第21章 loco
そうして、残務整理も全て終え、いよいよ本社を去る日、お節介な松本が壮行会を開いてくれた。
…とはいっても、丁度決算時期と重なったためか、参加者は松本と、当の本人である俺だけ、なんだけど(笑)
それでも俺としては嬉しかったし、出向先までの移動距離を考えれば、松本と飲む機会をつくることだって難しくなるだろうし、決して“最後”という訳ではないが、このタイミングで酒を酌み交わせるのは、有難いことでもあった。
俺は当然のように相葉さんの店を指定した。
相葉さんには、俺と智のことで何かと世話にもなったし、それなりに迷惑だってかけた。
だから挨拶を…と思ったんだが…
勿論、智が休みであることが条件ではあったんだけど、それ以前に松本が相葉さんの店に行くことを拒むから、俺は内心訝しみながらも、松本に誘われるまま、松本が以前から行き付けだというバーに向かった。
まさかそこがゲイバーだとは、露とも知らずに…
俺達はそう大して広くはない店で、一番奥のカウンター席に座り、お互いにジョッキをぶつけ合うと、この季節には若干不釣り合いの冷えた生ビールで喉を潤した。
カウンターの中では、無精髭を生やした長身の男が、小指をピンと立てて煙草を燻らしていて、時折り他の客と会話を楽しんでいる。
その口調は、最早言わずもがな…と言ったところだろうか、至極女性的で…
こういった世界があることは当然知っていたが、そのギャップに今更ながらに驚いてしまう。
「お前凄い店知ってんだな…?」
俺が言うと、松本は仄かに赤みの差した顔を綻ばせ、空になったジョッキを「おかわり」と言って、無精髭の男に向かって差し出した。
無精髭の男は松本からジョッキを受け取ると、慣れた手つきでサーバーからビールを注ぎ、本当の女性でも見せないような丁寧な仕草で、ジョッキをコースターの上に静かに置いた。
「潤ちゃん、飲み過ぎには気をつけなさいよ?」
なんて言いながら…
つか、“潤ちゃん”て…(笑)