君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第21章 loco
正直言うと、松本から異動先を聞かされた時は、“嘘だろ…”ってのが最初の感想で…
俺は暫くの間茫然自失のまま、その場で固まった。
松本曰く、
「名目上は“出向”だが、結局は“左遷”」だそうだが、実際のところ俺自身も同じことを思った。
ただ、現実として受け入れるのには、想像していた以上の時間がかかった。
たった一回だ…。
その“たった一回”だって、会社に多大な損害を与えた訳でもないし、そりゃ確かに迷惑はかけたし、松本がいなかったらどうなっていたか…、それだって松本はじめチームの仲間の尽力のおかげで、ある程度はリカバリー出来ている筈だ。
にも関わらずの処遇には、俺自身納得が行くものではなかったし、勿論辞表を出すことだって考えた。
でも最終的に俺が出した答えは、
「仕方ない…よな…」
会社の下した辞令を、甘んじて受け入れることだった。
まあ…松本は終始納得の行かない顔していたけどね…
「櫻井が辞めるなら、俺も辞める!」なんて、とんでもない事を言い出すから、それは必死で止めた。
俺がこれまで開拓してきた顧客と、俺が企画の段階からずっと携わって来たプロジェクトの今後を、信頼して任せられるのは、松本を除いて他にはいないんだと…
その説得の甲斐もあってか、松本渋々ながら会社に残ることを約束してくれた。
当然松本からも、絶対戻って来ることを固く約束させられたけど…
それがいつになるのか…、はたまた再び本社勤務の辞令を受け取ることが出来るのかは…、現時点では予想すら出来ないのだけれど…
その日から一転、俺の生活は急に慌ただしくなった。
異動に伴う取り引き先への挨拶回りに、松本に引き継ぐための顧客リストの整理に、入社当初から世話になった上司への挨拶…
家に帰れば僅かな時間を引越しの準備に割き、週末には何時間もかけて出向先の会社へと出向いた。
毎日ヘトヘトになるくらい、俺は忙しく動き回った。
新しい土地での生活しか考えられないくらい、忙しく…