君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第20章 delicato
ニノは雅紀さんと買い物に行けることを、とても楽しみにしてた。
そう…、まるで遠足を前にしたガキンチョみたいに…
だから言ってやったんだ…
「デートでもないのに、はしゃいでんじゃねぇよ(笑)」って…
なのにニノは怒るでもなく、俺に着て行く服の相談をしてきやがった。
馬鹿だよな…
ファッションに全く興味が無い奴が、同じように興味の無い奴に相談なんてさ…
大体、お互い持ってる服と言ったら、似たようなTシャツと、履き古したジーンズとか…、そんなモンしか持ってないのにさ…
でもそれだって全ては雅紀さんのため…
雅紀さんの“弟”でいるために、雅紀さんが恥ずかしくないように、少しでも、って…
俺はそんなニノをすげぇ可愛いと思ったし、同時に羨ましくもあった。
そんな風に一生懸命になれる相手…、俺にはいなかったから…
でもあの日突然入った団体予約が、ニノから笑顔を奪った。
勿論仕事だし、当然ニノだって仕方の無いことだと納得しているもんだと…、だからあんな暗い顔をしていたんだと…、ずっとそう思っていたけど…
そうじゃなかった…ってことなの?
『ニノに何て…言ったの…?』
俺が聞くと、一瞬表情を強ばらせた潤さんが、膝の上で握った手に更に力をこめたのが分かった。
「本当は弟なんて面倒臭いだけだ、って…。懐いて来るから相手にしてやってるだけだ、って…」
『えっ…?』
「だから、もう雅紀に近寄るな、って…。買い物だって一人で行った方が気楽だ、って…」
「そん…な…。俺、そんなこと一度だって思ったことないし、冗談でも言ったことないよ? 俺がどれだけ和也のことを可愛がってたか…、潤が一番良く知ってる筈でしょ? なのにどうしてそんな酷いことを…」
信じられないとばかりに首を小刻みに震わせるその姿は、静かな怒りに打ち震えているようにも見えて…
俺は一瞬伸ばしかけた手を、咄嗟に引っ込めた。
だって、いつもは大きく見える雅紀さんの背中が、何だかとても小さく見えたから…