君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第20章 delicato
「俺…さ、和也に言っちゃったんだよね…」
フッと息を長く吐き出した潤さんが、視線を天井に向けたまま、掠れた声で言う。
そしてその声は、
「雅紀は渡さない、って…。雅紀は和也のことなんて何とも思ってない、って…。だからもう雅紀には近付くな、って…」
次第に微かな震えを帯び始め、
「馬鹿だよな…? 雅紀の愛は俺に向けられてるのに、ちゃんと分かってるのに…、なのに和也に嫉妬して…、傷付けて…」
遂には嗚咽へと変わった。
天井を仰ぎ見た頬を涙が濡らし、顎先を伝って雅紀さんの手の甲にポツポツと落ち続け…
「俺が和也を殺した…」
雅紀さんの手が静かに離れて行くまで、止まることはなかった。
『殺した…って、どういうこと…? だってニノは…』
遺書や、自殺に繋がるような原因を記した物こそ残ってなかったけど、あの日現場検証に来た警察の人だって、明らかな自殺だって言ってたのに…
なのにどうして自分が殺したなんて…?
「あの日…、和也が死ぬ前日さ、和也が突然訪ねて来たんだ。ただその日に限って雅紀は早番で…。でも和也の奴、約束してあったからって言って聞かなくてさ…」
そんなに遠くはない過去を、涙で濡れた長い睫毛に縁取られた瞼を閉じて振り返る潤さんの横で、雅紀さんが何かを思い出したかのように、ハッとしたような顔をする。
「確かあの日は…そうだ、先延ばしになってた誕生日プレゼントを買ってやる、って…。だから一緒に買い物に行く約束をしてたんだ。だけど急な団体予約が入って…、結局断りの連絡もする余裕がなくて…」
その日のことなら、俺も良く覚えてる。
なんたって、その予約が入って来たおかげで、元々連休で取っていた筈の休日が、一日に減らされたんだから…
しかも前日飲み過ぎたせいか、二日酔いも酷くて…
だからかな…、その日のことは、数ヶ月経った今でもしっかりと記憶している。