君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第20章 delicato
『あの…さ…』
「ん、何?」
俺の手から空になったグラスを受け取り、雅紀さんが俺を覗き込む。
『その…さ…』
「うん、何?」
ずっと聞きたくて、でも聞けなかったことが喉まで出かかってるのに、いざとなると上手く言葉に出来ない。
でも、こんな時も、雅紀さんは俺を焦らせたりはしない。
俺が話し始めるのを、じっと待っていてくれる。
『雅紀さんは…さ、ニノのこと…』
「和也が…どうしたの?」
その名前を出した瞬間、ほんの小さな…良く見てなきゃ気付かないくらいの変化なんだけど、雅紀さんの表情が曇ったような気がして…
だからかな…、俺も言葉を続けることに躊躇ってしまう。
でも一度切り出してしまった以上、もう後に引くことも出来なくて…
『どう思ってたのかな…って…』
「どう…って、例えば?」
『例えば…その…』
ずっと頭の片隅に引っかかっていて、いつ切り出そうかと考えていたことなのに、思うように言葉に出来ない。
そんな俺の気持ちを察したのか、雅紀さんが俺の頭をポンと叩く。
そして小さく息を吐き出すと、
「俺が和也を“弟”以外の目で見てたか、ってことか…」
まるで俺の思いを代弁するかのように呟いた。
雅紀さんにとってニノの存在がどんなものだったのか…、今更それを確かめたところで、肝心のニノはもうこの世にはいない。
ただ自分の中で答えが欲しかった。
ニノが、決して叶うことのない想いを抱え、苦しんでいたのを、俺はずっと傍で見てきたから…
『…うん。あ、でも答えたくなかったら別に…』
言いかけた俺の前で、雅紀さんが小さく笑って首を横に振った。
「俺にとって和也は、義理ではあるけど弟以外の何者でもないよ。それ以上でもそれ以下でもない」
ハッキリとした口調で言って、一瞬天井を仰いだ雅紀さん。
それはある意味、俺が予想していた通りの答えだったのかもしれない。