君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第19章 stringendo
結局智と別れたことを話せないまま、お袋に押し切られるよう二階の自室へと上がった俺は、ヘトヘトに疲れた身体をベッドに投げ出し、じっと天井を見上げていた。
そうしていると、どうしてだろう…、天井のシミ一つ一つが智の顔と重なって見えるから不思議だ。
俺は枕元に置いたスマホを手に取ると、写真の保存してあるアプリを開いた。
普段写真なんか滅多に撮らないから、数は多くないけど、その中から一枚だけを選んで液晶に表示させる。
花火大会の日、智と並んで撮った写真だ。
そう言えばあの時、智は写真を撮るのを凄く嫌がってたっけな…
でも俺が、「初めてのデートの記念に」って言ったら、渋々了承してくれたんだ。
だから一応笑ってはいるけど、どこか引き攣ったような笑顔になってるんだな…
智にとっては嫌々だったかもしれないけど、それでも嬉しかったな…
誰かと写真を撮ることが、こんなにも嬉しいと感じたのは、後にも先にもあの時の一度だけかもしれない。
その後は、俺がカメラを向ける度に、智はそっぽを向いてしまって、中々撮らせてくれなかったんだよな…
こんなことなら、適当な理由でも付けてもっと撮っておけば良かったかな。
まあ…、何を言ったところで後の祭りなんだろうけど…
それにしても疲れた…
歩き疲れたのもあるけど、それ以上に色んなことが一度に起こり過ぎて、身体に感じる疲労以上に、精神的な疲労感の方が強く感じる。
俺はベッドサイドの灯りだけを残し、部屋の照明を落とすと、俄に重たくなった瞼を静かに閉じた。
本当は、松本から何度も連絡が入っていたのも分かっていたし、返事をしたいところだけど、流石に睡魔には勝てそうもない。
俺はまるで何かに引っ張られるかのように、深い深い眠りに落ちて行った。