君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第19章 stringendo
尤も…、呆れていたのは俺ばかりじゃない。
親父もお袋も…、最早怒りも何もかも通り越し、空いた口が塞がらないといった風で…
でもどこか安堵したようにも見えるのは、息子が後先のことも考えられないような、愚かな人間じゃなかったからだろうな…
ただ、その安堵の表情だって、俺がこれから告げようとしていることで、一変することになるんだろうなと思うと、内心心苦しくもある。
でもいつまでも黙っておくことは出来ないし、隠し通せることでもない。
俺は再度表情を引き締めると、乾き始めた喉を潤すように、お茶を一気に飲み干した。
「それで…さ、さっき俺言ったでしょ、好きな人がいる…って…」
俺が言うと、お袋は思い出したようにテーブルに身を乗り出し、
「それで? どんな方なの? 同じ会社の方?」
僅かに目を輝かせた。
長年付き合ってきた彼女にフラれただけでなく、利用されていた息子の心情を思えば、それが当然の反応だと思う。
そして、この後に見せるであろう反応もきっと…
「違うよ、会社は関係ないよ」
「じゃあ…。でもあなたが見初めるくらいだから、きっと可愛らしい方なんでしょうね?」
「まあ…、うん…」
確かに、智は男にしておくのが勿体ないくらい可愛らしい顔をしているし、たまに見せる憂いを帯びた横顔は、時に妖艶にも見せる。
ただそれはお袋が望む“可愛らしさ”とは、全くかけ離れた物で…
「お家柄は? ご両親は何をされてる方なの?」
矢継ぎ早な質問は、俺の新たな恋人に対して期待をしているからなんだろうな…
でも、ごめん…
「男…なんだ…。それから、彼のご両親がどんな方なのかも、実は知らないんだ…」
そうだ…
今の今まで気にしたこともなかったが、俺は智のことを何も知らない。
勿論、智が過去にどんな恋愛をして、今現在どんな暮らしをしているか…ってことは、相葉さんや松本からも聞いているから知っているけども、それ以外のことは何も知っちゃいなかったんだ、って…