君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第18章 espresso
静かに差し出されたティッシュを受け取り、零れる涙を拭う。
でも、拭いても拭いても涙が次から次へと溢れて、とても一枚じゃ足りなくて…
それを見た松岡先生が、白衣のポケットからハンカチを取り出し、俺に差し出した。
「辛かったな…?」って言いながら。
俺はその言葉に無言で頷くけど、実際はそうじゃない。
辛くはなかった。
でもずっと苦しかった。
心の奥底に罪の意識を抱えながら、それでも笑っていられることが…、生きていることが、苦しくてしかたなかった。
もしそれが松岡先生の言う辛さだと言うなら、そうなのかもしれないけど…
俺は開けることなく置いてあったかんこーひー缶コーヒーを手に取ると、プルタブを引いて一息に飲み干した。
すっかり温くなってしまったコーヒーは、缶コーヒー特有の甘さ香りだけを残し、俺の身体を冷やすことなく喉元を過ぎて行った。
「少しは落ち着いたか?」
『…うん』
「そっか…。なあ、坊主…」
つい数分前まで医師然としていた松岡先生の顔が、一瞬和らいだと同時に、僅かに苦渋を含んだ物へと変わった。
「お前さっき言ったよな、“自分が殺した”って…」
『…うん…』
勿論、俺が直接何かをしたわけじゃない。
でも、俺がもし真っ直ぐアパートに帰ってたら…
もしかしたら、間に合っていたのかもしれない。
もしかしたら、ニノを助けられたのかもしれない。
俺があの時、コンビニなんかに寄らなければ…
ニノは今でも生きていたのかもしれない。
そしたら、今もニノは俺の隣で笑ってたかもしれない、って…
『だから俺がニノを殺したんだ…』
「まあ、お前の気持ちは分からんでもないが、でもそれってのはさ、お前が寄り道しようがしまいが、関係ないんじゃないか?」
『えっ…?』
首を傾げた俺の髪を、松岡先生の手がクシャリと混ぜる。
そしてそのまま俺の隣まで席を移動すると、困惑する俺の背中にそっと腕を回した。