君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第18章 espresso
俺の背中にそっと触れた手が、ゆっくり上下する。
その手の温かさがとても心地よくて…
抱きしめられたわけじゃない、ただ背中を摩ってくれてるだけ…
それなのに妙に胸が高鳴って、ついその広い胸に寄りかかりたくなる。
別に松岡先生に特別な感情を持っているわけじゃない。
だって、俺の心も…それから身体も、まだこんなにも翔さんを忘れずにいるんだから。
それに松岡先生だって、潤さんから聞いた話では結婚を約束した人がいるみたいだし…
ただ、甘えられる場所が欲しかったのかもしれない。
「いいか、良く聞け。お前は何も悪くない」
『でも…っ…』
言いかけた俺を、松岡先生が静かに首を横に振って制止する。
「二宮君がどうして自ら命を絶ったのか…、その理由は分からないし、知ることはもう出来ない」
だってニノはもういないんだから…
「仮に…だ、知ることが出来たとして、きっと二宮君を止めることは…不可能だったんじゃないのか?」
確かにそうなのかもしれない。
でも俺は…ニノをこんな形で亡くしたくはなかった。
お互い心の中に別の人を想いながら、永遠に…なんて無理かもしんないけど、それでも一緒に時を重ねて行きたかった。
“恋人”なんて名ばかりの関係の俺達だから、親友としてでも…
『それでも俺は…』
「お前が二宮君を救いたかった気持ちは分かる。でもな、もしお前が二宮君を救えたとして、二宮君の気持ちはどうなんだろう…」
『ニノ…の、気持ち…?』
「そうだ、二宮君の気持ちだ。命を絶つ程の苦しみを、彼は抱えていた。その苦しみをその先もずっと抱えて生きて行くことになるんだぞ?」
それでもお前は彼を救うことを選択するのか?
松岡先生の落ち着いた声が、優しすぎる眼差しが、俺の胸の奥に詰まっていた物を静かに溶かしていくのを感じて…
俺は瞼をそっと伏せ、静かに首を横に振った。