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君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】

第18章 espresso


一分一秒がとても長く感じて、一体どれくらいの時間が経ったのかも分からなかった。

「…み、君…?」

突然視界を遮るように立ち塞がった警察官に肩を揺さぶられ、俺はハッと我に返った。

「えっ…、あ…はい…」

「君が第一発見者で良かったね?」

第一発見者って…、この人は何を言っているんだろう…って、その時はそう思った。

でも不意に視界の片隅に、ブルーシートをかけられた担架が運ばれて行こうとしているのを捉えた瞬間…

「待てよ…、ニノをどこに連れてくんだよ…」

俺は目の前の警察官を突き飛ばし、傍にいたもう一人の警察官が制止するのも払い除け、担架にかけられたブルーシートを捲り上げた。

「き、君…!」

「嫌だ、ニノを連れて行くな!」

眠ったままのニノに縋り、困った様子で顔を見合わせる救急隊員を睨み付ける。

「ニノはどこにもやらねぇ…。勝手に連れてくんじゃねぇ…」

「そうは言ってもね、君…。気持ちは分かるけど、その子はもう…。それにこれから遺体を解剖して…、それから…」

頑としてニノから離れまいとする俺に、警察官の一人が坦々とした口調で説明をしながら、俺の腕を掴んでニノから引き剥がそうとする。

勿論、抵抗はした。

でも、俺なんかより体格の良い警察官二人に羽交い締めにされたら、到底適う筈なんてなくて…

俺の手がニノから離れたほんの一瞬の隙をついて、救急隊の手で担架が運び出された。

「離せよっ! ニノ…、ニノッ…!」

救急隊が、玄関に転がったままになっていた小さな箱を踏み潰して行くのを見ながら、俺は叫んだ。

意識が飛んで、ぶっ倒れるくらいに、俺はニノの名前を呼びながら叫んだんだ…



『それで、次に目が覚めた時には、声も出なくて…。ニノが死んだ…ってことは分かってたけど、それ以外のことが思い出せなくて…』

今頃になって漸く思い出したよ…、全部。

ふと気づけば、いつの間にか溢れ出した涙の雫が、白い紙の上に無数に散らばった文字を滲ませていた。
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