君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第18章 espresso
目の前にある光景が信じられなくて…
もしかしたら夢でも見てんのかな…って、だったらすげぇタチの悪い夢だな…って…
でも、何度瞼を擦っても、頭を振ってみても、目の前にある光景が変わることはなかった。
「ニ…ノ…? 嘘だろ…、ニノッ…!!」
俺は叫んだ。
そして、開け放った窓から吹き込む僅かな風にも揺れることなく、微動だにしない足先に駆け寄った。
「なんで…、どうしてこんなこと…」
まるで何かに吊り下げられたかのように宙に浮いた足に縋り、身長差の殆どない俺達だから、普段は決して見上げることのないニノの顔を見上げる。
「な、なあ…、嘘だろ…、なあ、ニノッ…!!」
嫌だ…、嫌だ嫌だ嫌だ…っ…!!
「待ってろ…、直ぐ下ろしてやっから…」
俺は足元に無様に転がったパイプ椅子を立て直すと、ガクガクと震える足で座面に上り、梁の部分に結えられたロープを解こうとするけど…
「クソっ…、こんな時に何で…」
指が異常なくらいに震えて言うことを聞いてくれない。
それでも何とかロープの結び目を解くと、まるで糸の切れた操り人形のように崩れ落ちるニノの身体を抱きとめた。
「今外してやるから…」
キッチンの床にニノを横たえ、首に巻き付いたロープを外してやる。
そして色を失くした頬を叩きながら、何度も耳元に叫んだ。
「起きろ!」って…
「ふざけんなっ…!」って…
何度も何度も…、声が枯れるまで何度も…
でもニノが再び目を開けることはなくて…
騒ぎを聞きつけた隣のおばちゃんが通報したんだろうね…
数分もしないうちに外ではサイレンがけたたましく鳴り響き、六畳一間とキッチンしかないアパートの一室は、救急隊やら警察官やらで瞬く間に人で溢れかえった。
その中で俺は、涙すら流すことなく、救急隊と警察官が部屋の中を動き回るのを、ただ呆然と眺めていた。
ドラマみてぇだな…、って…
目の前で起きていることは、ドラマみたいな造られた風景なんかじゃなくて、紛れもない現実なのに…