君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第3章 marcato
彼女との結婚を真剣に考えてたのは事実。
だから、
「いや、彼女と結婚したい、って思ったのは本気だった」
と、胸を張ってキッパリ言える。
そうじゃなかったら、給料の倍以上はする指輪なんて、買おうとも思わなかったし。
でも今の俺のこの状態を考えると…そこまで本気じゃなかったのかとさえ思えてくる。
「なんか…意味分かんないんだけど…」
本人にさえ分かってないんだら、他人の松本がそう言うのも無理はない。
でも本当に一瞬だったんた。
「なんつーのかな…、全部帳消しになったんだよな…、あの子に会った瞬間に…」
厳密には、彼の“声”を聞いた瞬間、だけど…
あの瞬間、それまで俺を包み込んでいた、超マイナスオーラが一変したんだ。
「え、ちょ、ちょっと待って…。今なんつった? 俺の聞き違いじゃなきゃ、“あの子”って言った?」
松本が、テーブルに並んだ空の食器をひっくり返す勢いで、身を乗り出す。
そうなると当然、声も大きくなるわけで…
「だ、だから声でかいんだって…」
俺は周りを気にしながら、伝票を手に取った。
「ここじゃなんだから、外で話そう…」
部署は違うが、同じ会社の社員証を首からぶら下げた奴等がいる場所では、流石に気まずさを感じずにはいられない。
二人分の会計を済ませた俺は、先に店の外へと出ると、目の前にあった自販機で、やっぱり二人分の缶コーヒーを買った。
「ねぇ、ちょっとどういうこと?」
暖簾を潜るなり、まるで噛み付く勢いの松本の腕を引き、人気のない公園のベンチへと移動した。
陽の当たる場所では汗ばむような暑さを感じるが、日陰に入ってしまえば、暑さもそれ程ではない。
俺は黙って松本に缶コーヒーを差し出すと、自分の分のプルタブを引き、冷たいコーヒーを喉に流し込んだ。
「で、どういうことなの?」
「とりあえず飲めよ。温くなるぞ?」
受け取った缶コーヒーを握りしめたまま、何度も首を傾げる松本にそう促すと、俺は一瞬天を仰いでから、息を吐き出した。
「実はさ…」