君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第3章 marcato
「実は…さ、お前に聞いて欲しい…っつーか、教えて欲しいことがあって…」
「俺…に? 翔さんが?」
最後に一本残ったパスタをツルんと啜った松本は、訝しげな表情で首を傾げた。
そりゃそうだ…、松本は元より、滅多に人にものを訊ねることをしない俺が、いくら同僚とは言え、松本に向かって「教えて欲しい」と言っているんだから、松本が怪訝な顔をするのも頷ける話だ。
でも裏を返せば、それくらい俺は今、自分の中に巻き起こっている不可思議な感情に困惑している、ってことだ。
「例えば…そうだな…、お前が恋人にフラれたとするだろ?」
「えっ、やだよ…、俺絶対別れないよ?」
“例えば”としっかり前置きをしているにも関わらずの返しに、俺の肩がガクッと下がる。
思い出した…、松本って奴は、外見こそモデル並に格好良いが、中身は想像以上に天然だってことを…
「だーから、例えばの話だよ…」
「あ、そうだった…。俺、つい…。で、俺が恋人に振られたとして…の続きは?」
何事もなかったかのように、話の続きを求めて来る松本。
その顔は、さっきよりは若干真剣で…
俺はコホンと咳払いを一つすると、この季節には少々不釣り合いな、熱いお茶を一口啜った。
「そう、それでだな、振られたとするだろ? でも、何も感じないって言うか…」
「プロポーズまでして振られたのに?」
あまりにストレートな物言いに、俺は戸惑うこともなく頷いた。
「理由もきかされてないのに?」
「ま、まあ…な…」
「なのに何も感じてない…って? 悔しいとか、悲しいとかもなく?」
いつの間に立場が逆転したのか、今度は俺の方が松本の質問攻めに合ってるような気がするのは、多分俺の気のせいなんかじゃないんだ…ろうな…
「ねぇ、それってさ、本気で彼女のこと好きだったの? って言うかさ、本気で彼女と結婚したいと思ってた?」
意表をつく…というよりかは、的を得た松本の質問に、俺は思わず首を捻った。
実際、俺自身それを考えなかったわけじゃないから…