君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第16章 divisi
数日後、俺は潤さんに連れられて、松岡さんが勤務する病院を訪れた。
松岡さんとは面識もあったし、一人でも大丈夫だって言ったけど、心配症の雅紀さんが不安がるから、仕方なく…なんだけど、まさか潤さんと二人きりなんて…
気不味さしか感じないんだけど…
とは言え、松岡さんは潤さんの先輩でもあるし、潤さんがいなかったら、そう簡単に松岡さんの診察は受けられないし…
病院って場所に行くってことだけでも十分気は重いのに、更に重さを増した気分に、俺は潤さんから見えないようこっそり溜息を落とした。
「あ、そう言えば雅紀から聞いたけど、雅紀のマンションに居候することにしたんだって?」
『まあ…』
そうだった…
一方的にバイトをクビにされた結果、毎月の家賃も滞るようになった俺は、今までアパートを引き払って、雅紀さんの部屋に居候することにした…というか、“なった”と言うか…
本当はもう少し頑張りたかったけど、雅紀さんの店で貰うバイト代だけではやっぱり無理で…
仕方なく…本当に仕方なく、居候させて貰うことに決めたんだけど…
雅紀さんの部屋には、当然潤さんもいるわけで…
見通しが立つまでの間とは言え、潤さんと上手くやって行ける自信がない。
でもそう思っているのは何も俺だけじゃなくて…
「雅紀が決めたことだから、俺に口を出す権利はないけど、邪魔だけはするなよ?」
潤さんからはしっかり釘を刺された。
つか、邪魔なんかするつもりないし…
『めんどくせぇ…』
潤さんに見えないよう、一人ごちった時、
「大野さん、大野智さん…」
俺を呼ぶ声がして、俯いていた顔を上げた俺は、
「行くぞ?」
『…はい…』
先に席を立った潤さんの後に着いて、気持ちと同じくらい重い足を引きずるようにして、松岡さんの待つ診察室へと入った。