君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第16章 divisi
一旦付いてしまった火を消そうと、俺は雅紀さんをカウンター席に座らせた。
そしてメモ帳に、
『仕方ないよ…』
そう書いて見せると、雅紀さんは拳をカウンターテーブルに叩き付けた。
「仕方ないってさ…、そんな簡単に納得出来んの? つか、悔しくないわけ?」
普段は温厚で、滅多なことで声を荒らげたりしない雅紀さんが、珍しく感情を顕にする。
俺だって悔しいよ…
悔しいし、腹ん中煮えくり返るくらいムカついてるよ。
好きでゲイになったわけじゃないし、気付いた時にはもう男しか愛せなくなってただけなのに、どうして責められなきゃなんねぇのかって…、本当は言ってやりたいよ…
でも仕方ないじゃん…
所詮、特殊な人間の気持ちなんてのは、同じように特殊な人間にしか分かんないんだからさ…
『ありがと…、俺のために怒ってくれて…』
「当たり前でしょ? 智は大事な弟なんだから…」
弟、か…
ちょっとむず痒いけど、そんな風に思ってくれてたんだと思うと、すげぇ嬉しい。
『あのさ、一つだけお願いしても良い?』
「なに? 俺で出来ること? あ、殴り込みに行くなら、俺より潤の方が…」
確かに…
潤さんて、けっこう血の気多いからな(笑)
…って、そうじゃなくて…
『給料取りに行く時、着いて来て欲しいんだ』
「ああ、そんなこと? それなら、智の保護者として当然そのつもりだし…」
『それともう一つ…。お客さんで、松岡さんているでしょ?』
「ああ、潤の先輩で…、確かお医者さんだったっけ…?」
『うん…。俺、ちゃんとリバビリ受けてみようと思って…』
それは翔さんと別れて、少し経った頃からずっと思っていた事で…
ただ、きっかけが中々見つからなかっただけ…
「そっか…、分かった。潤から連絡取って貰うよ。それで良い?」
『うん…』
いつまでも過去にしがみついてたって仕方ないし…
そろそろ俺も前向かないと…