君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第16章 divisi
そこは、俺が想像していたのとは全く違った印象の部屋で…
診察室というよりは、オフィスの一室… みたいな部屋で、それまで重かった俺の気持ちが、一気に軽くなったのが分かった。
松岡さんは、俺を一目見るなりフッと唇の端を持ち上げ、
「やっと来たな、坊主(笑)」
そう言って俺の髪を大きな手でグシャッと掻き混ぜた。
つか、坊主とか言われる程、俺はガキじゃねぇし…
一気に不機嫌丸出しの表情を浮かべた俺を、松岡さんは豪快に笑い飛ばすと、如何にも座り心地の良さそうな椅子を指差した。
「まあ、座れや」
言われて、俺と潤さんはテーブルを挟んだ松岡さんの前に座った。
そして、真っ白な紙とペンを俺に差し出すと、視線を潤さんの方に向け、薄らと髭を生やした顎をしゃくって、潤さんに診察室を出て行くよう指示した。
渋々、下ろしたばかりの腰を上げ、潤さんが診察室を出て行くのを、視線の端で追い、パタンとドアが閉まった瞬間、何故だかホッと胸を撫で下ろす俺…
そんな俺を見て、プッと吹き出す松岡さん。
でもそれは一瞬のことで、直ぐに真剣な表情を浮かべると、
「じゃあ…始めようか?」
そう言って手元にタブレット端末を引き寄せた。
「これから幾つかの質問をするんだが…、もし答えにくい質問があれば、それは答えなくても構わないから…」
『はい…』
カウンセリングなんてのを受けるのが初めてだからか、妙に緊張してしまう。
「んな緊張しなくて良いから、リラックスしてな?」
『はい…』
「じゃあ…、先ずは…」
松岡さんからされる質問は、 俺の両親のことだったり、学生時代のことだったり…
特に答えられないような質問は、何一つ無く…
気付けば、最初は真っ白だった筈の紙には、無数の文字が並んでいた。
なんだ…こんなもんか…
きっと高を括ってたんだと思う。
だから…かな、質問がニノの死に及んだ瞬間、それまで順調に動いていた俺の手がピタリと止まり、ポタボタと落ち始めた大粒の涙が、幾つかの文字を滲ませた。
『divisi』ー完ー