君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第16章 divisi
「腫れも大分引いたみたいだし、そろそろ仕込みに入ろうか? 今日は団体予約も入ってるし、忙しくなるからさ」
ゲッ…、週末でもないのに、予約とか…マジ勘弁して欲しいんだけど…
きっと凄く嫌そうな顔をしてたんだろうね…
「こーら、そんな顔しないの! お客様無かったら、智のお給料だって払えないんだからね?」
はは…、それは流石に困るかも(笑)
脅しとも取れる雅紀さんの言葉に急かされるように、俺はロッカールームへと駆け込んだ。
ユニフォームに着替え、油の染み込んだ前掛けをかけると、それまで全然ヤル気なんて無かったらのに、気持ちが一瞬で仕事モードに切り替わるんだから不思議だ。
俺は必需品のメモ帳とペンを前掛けのポケットに突っ込むと、リュックをロッカー仕舞った。
特別貴重な物なんて入ってはいないけど、ドアを閉めて一応鍵をかけようとしたその時、リュックのポケットに入ったままのスマホがけたたましく鳴った。
誰だろう…
俺に電話がかかって来ることなんて、こうなって以来滅多にあることじゃない。
俺は一度は閉めた扉を開け、リュックのポケットからスマホを取り出すと、着信相手を確認してから通話ボタンを押した。
「あー、もしもし大野くん?」
電話の相手は、新しく初めたバイト先の上司、上島さんだった。
でもどうして上島さんが?
つか、電話なんかされたって俺が喋れない、って分かってるだろうに…
俺は、電話の向こうにいる上島さんには見えないと知りながら、小さく頷いた。
「あのね、ちょっと言い辛い事なんだけどね…」
どちらかと言えば饒舌な上島さんにしては、神妙な物言いに、訳も分からず不安になる。
何だろう…
「ごめんね? 本当はさ、もっと働いて貰いたいんだけどさ、明日からは来て貰わなくていいや…」
えっ…?
「ほら、色々とさ困るんだよね、その…特殊って言うかさ…」
分かるだろ、そう言って上島さんは電話の向こうで苦笑した…ような気がした。