君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第16章 divisi
半分呆然、残りの半分は怒りと…まあ複雑な感情を抱えたまま雅紀さんの店に行くと、俺を見るなり挨拶もすっ飛ばして、雅紀さんは腹を抱えて笑い出した。
こっちは笑い事じゃないのに…
両頬を目一杯膨らました俺に、雅紀さんが
「悪い悪い、あんまり見事な手形だから、つい…(笑)」
なんて言いながら、水で濡らしたタオルを差し出してくる。
つか、俺の顔そんな酷いことになってんの?
雅紀さんから受け取ったタオルをジンと痛む頬に当てると、冷たさが火照りを冷ますのが分かる。
「しかし、随分とまあ…(笑)」
心配してるようなこと言って…笑ってんじゃんか…
『だってムカついたんだもん…』
たまに顔を合わせるだけで、特に絡んだこともないのに、いきなり付き合ってくれ、とか…
『意味分かんねぇし…』
「まあ…な? でもさ、何も馬鹿正直に“俺はゲイです”って言わなくても良かったんじゃない?」
『だって…』
雅紀さんの言いたいことは分かる。
以前に比べれは大分認知されるようにはなったし、奇異の目で見られらることも少なくはなってきた。
それでも俺達みたいなのは、世間的にはまだ異端でしかないし、生産性のない恋愛自体を嫌う人だっているわけだから、なるべく自分の性癖を隠して生きて行くのが、自分のためでもあるってことは、こんな馬鹿な俺でも分かってる。
でもそれじゃ息が詰まんだよ…
ずっとそうして本当の自分を押し殺して生きて行くのって、案外辛いんだぜ?
ま、元々ノンケだった雅紀さんだから、その辺は理解してくれてると思うけど…
そうじゃなかったら、あの潤さんとはとても付き合えないしね?
実際には見たことはなああけど、ドラッグクイーンなんかしてるくせに、タチとかさ…俺から言わせりゃ、あの女子高生と同じレベルで意味が分かんないんだけどさ(笑)
ま、そんな潤さんだから、雅紀さんみたいな人が惚れたんだろうな…