君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第16章 divisi
そんなある日、新しく始めたバイト先からの帰り道、一人の女に声をかけられた。
良く見ると、同じバイト先で働く高校生のバイトの子で…
『何か用?』
聞いても首を傾げるから、仕方なくポケットの中に入れたメモ帳とペンを取り出し、
『俺に何か用?』
再度聞いてみる。
本当は、夜も雅紀さんの店で深夜までのバイトも入ってるし、早く帰りたいんだけど…
一応相手は高校生だしと思って平静を装って見せるけど、内心はイラついていて…
目の前で、あざとさたっぷりに上目遣いをする女子高生に、そんなつもりはなくても溜息ばかりが零れてしまう。
「あの、大野さんて付き合ってる人とか…」
『えっ…?』
「だから、彼女とかいるのかなぁ…って…」
そう言って、わざとらしく恥じらって見せる女子高生に、そこはかとない嫌悪感が込み上げて来る。
俺はメモ帳にペンを走らせると、書きなぐるように乱暴な文字で『いない』とだけ書いて、女子高生に見せた。
すると、女子高生は途端に顔を綻ばせてから、何かを期待するような目で俺を見上げ、
「じゃあ、私と付き合ってくれないかな、って…」
高校生のくせに赤過ぎる唇の端を持ち上げた。
気持ち悪ぃ…
大体、俺はその子の名前も知らないし、喋ったことだってないのに、どうして付き合うとか簡単に言えるんだろう…
俺のことなんて何も知らないくせに…
俺は再びペンを走らせると、
『俺、ゲイだし、女には興味ないから…』
そう書いたメモ帳を女子高生に向かって差し出した。
瞬間、それまで笑顔だった女子高生の顔が強ばり、まるで壊れた人形のように首を小刻みに揺らし、わなわなと震わせた手をキュッと握ったかと思うと、破裂音と共に俺の頬に鋭い痛みが走った。
『いってぇ…』
咄嗟に頬を抑えた俺に、女子高生の冷たい視線が突き刺さる。
そして、
「ゲイとか…、気持ち悪っ…。最低!」
捨て台詞を残し、足早に去って行った。