君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第16章 divisi
それからの俺は、これまで以上にバイトに明け暮れる日々を送っていた。
雅紀さんには反対されたし、当然のように心配もされたけど、大丈夫だからって喋れなくても出来るバイトだって増やした。
収入的には満足行く額ではなかったけど、細かい作業が好きな俺には向いてる仕事だったし、雅紀さんの店のバイト代と合わせれば、何とか生活出来るくらいはあった。
ギリギリだったし、体力には自信があった俺でも、身体が悲鳴を上げる時も、そりゃあったけど…
それでも充実はしてたし、何より忙しくしている時間は、翔さんのことを忘れてたいられた。
そう…、俺は翔さんのことが、あれから数ヶ月経った今でも忘れられずにいる。
もう後何ヶ月もしたら子供だって産まれるだろうし、そしたら正式に結婚する予定だって潤さんからも聞いてたし、きっと俺のことなんてもう忘れただろうし…
いい加減俺も忘れなきゃな…って思ってたけど、出来なかった。
それくらい、俺の中で翔さんは大きな存在だった。
だからかな…、朝目が覚めた時、涙で枕が濡れてることだって、一度や二度じゃなかった。
翔さんを想う気持ちは、消えて無くなるどころか、日を追うごとに膨れて行った。
そんな俺に潤さんは、いつまでもしがみついてないでさっさと諦めて、次の相手でも探せって言ったけど、雅紀さんは全くその逆で…(笑)
無理して忘れる必要はない、なんて言うから俺もどうして良いのか分からなくて…
結局、スマホから翔さんの連絡を消すことも、他人から見たらどうでも良いようなメールのやり取りでさえ、消せないでいる。
俺、前はこんなじゃなかったのに…
一度縁の切れた相手は、記憶からもスマホからも、速攻削除して来たのに…
翔さんだけは、何度削除ボタンを押そうとしても、途中で指が止まってしまって…
その度に自分の弱さに溜息を落とした。