君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第16章 divisi
飯を済ませ、空っぽだった腹も充たされた俺は、洗濯機を回す間に雅紀さんにメールを送った。
『今夜出勤するから』って…
きっと雅紀さんのことだから、休めって言うんだろうけど、そうも言ってられない事情ってもんが、俺にはある。
なんたって、ニノがいなくなった今、アパートの家賃から、光熱費や食費…生活にかかる費用は、全部俺一人で賄わなきゃならない。
雅紀さんもそのことを知ってるから、なるべく時間を長くしてくれたり、時給だって…
だから元々の休み以外は、バイトは休みたくない。
俺は雅紀さんの返事を待つことなく、リュックにバイト用のユニフォームを突っ込むと、自転車の鍵をスマホと一緒ななポケットに捩じ込んだ。
その時、ふいに雅紀さんが買ってきてくれた風邪薬が視界に入って…
これ飲むと眠くなるんだけどな…
『一応持ってくか…』
一度は背負ったリュックを下ろし、内ポケットの中に放り込んだ。
『じゃ…、行ってくる』
ニノの写真に一言言って、俺は部屋を出た。
外に出ると、まだまだ強い陽射しに、さっぱりした筈の身体にも途端に汗が吹き出した。
『あっち…』
自転車に跨り、キャップを目深に被ってから、ペダルを漕ぎ始める。
でも、少し走り出してから気付いた…、ペダルを漕ぐ足の重さに…
凄く重くて、通い慣れた筈の道なのに、雅紀さんの店までが何だかとても遠くに感じてしまう。
たった一晩寝込んだだけなのに、何年かぶりに出した熱が、どれだけ俺の体力を奪って行ったのか、って思うと情けなくなってくる。
仕方なく途中のコンビニに立ち寄り、水分補給用のスポーツドリンクを買って、僅かな休憩を挟んで再び自転車を漕ぎ始めた。
そうして漸く雅紀さんの店に着いた頃には、シャツはグッショリ、膝はガクガクで…
「ねぇ、お前馬鹿なの?」
案の定、雅紀さんには散々呆れられた上に、厳重注意を受けたけどね(笑)
でもそれも、雅紀さんの優しさなんだ、って俺は知ってるから、素直に『ごめんなさい』って言えたんだけどね?