君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第16章 divisi
雅紀さんが買って来てくれた薬が効いたのか、俺の熱も次の日の朝にはすっかり下がっていて…
ふとテーブルの上に視線を向けると、走り書きのされたメモが一枚置かれていて、そこには
“起きたらメールすること”
雅紀さんらしい、決して綺麗ではないけど、個性的な文字で書かれていた。
俺はそのメモの通り、スマホを手に取ると、雅紀さんにメッセージを送った。
一言だけ、“ありがとう”って…
本当はもっと伝えたい事もあったけど、それ以上の言葉がどうしても見つからなかった。
それに雅紀さんなら、その一言だけで伝わるってことを、俺は知ってるから…
俺はスマホの画面を閉じると、夜中のうちにかいた汗を流すべく、風呂場に向かった。
汗を含んだシャツを脱ぎ、洗面台の上の小さな鏡に自分の身体を映し、首筋や胸、脇腹や下腹部に至るまで、全身に散らばる赤い痣を指で一つ一つなぞる。
今はこんなにも色濃く残っている痣も、数日も経てばどんどん色褪せて行って、やがて跡形も無く消えて行くんだと思ったら、急に寂しさが込み上げて来て…
もう泣かないって決めてたのに、溢れて来る涙が止められなかった。
『翔さん…会いたいよ…』
もう二度と会えないって…
会っちゃいけないんだって分かってるのに会いたくて会いたくて堪んないよ…
胸が苦しくて、痛くて…
こんな想いをするくらいなら、最初から好きになんかならなきゃ良かった…って…
所詮俺達は違う種類の人間なんだ…って…
だから上手く行く筈ないんだ…って…
そう思えたらどんなにか楽なんだろう…
でも俺は翔さんに恋をした。
それは紛れもない事実で…
この先どんな人と出会ったとしても、翔さん以上に好きになれる人なんて…現れることはないだろう。
きっと最初で最後の恋…
その相手が翔さんで良かった。
俺は流れる涙をシャワーで洗い流すと、少しだけさっぱりした身体と一緒に、タオルで拭き取った。