君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第16章 divisi
「これでいっか…」
新しいシャツを手に、雅紀さんが戻って来る。
つか、それニノのじゃん…
ニノとは服とかも殆どシェアしてたくらいだから、別にいいけど、兄貴なのにそんなことも知らねぇのかよ…
「はい、シャツ脱いで?」
『…いやだ…』
俺は頭が痛むのも構わず首を横に振り、タオルケットを引き寄せた…けど、今の俺が雅紀さんに適う筈もなく…
タオルケットの端を握った手を、加減てことを知らない馬鹿力で掴まれたかと思うと、抵抗する間もなくシャツが捲り上げられ、勢いのまま身ぐるみ剥がされる俺…
俺…、これでも一応病人なのに、扱い雑過ぎじゃねぇか?
なんて考える間もなく、
『アチっ…』
俺の背中に、ホッカホカの蒸しタオルが当てられた。
レンジの音がしてたと思ったけど…、この為か…
それにしても雅紀さん…、俺のこの身体見ても何とも思わないのかな…
胸や腹は勿論のこと、背中にだって無数の痕が残されているのに…
「ほら、前は自分でやりな?」
されるがまむ身を任せていた俺の手に、同じようにホッカホカのタオルが渡された。
俺はタオルを広げ、軽く熱を冷ますと、言われた通りに身体を拭き始めた。
自分ではそう気にならなかったけど、けっこう汗かいてたんだろうな…、スっとして気持ちいい。
「なあ、智? 櫻井さんと何があった?」
『えっ…?』
「旅行…行くって言ってたでしょ?」
『う…ん…』
「行ったの?」
一番聞かれたくなかったこと…
雅紀さんに旅行のことを聞かれたら、何て答えようか…って、アパートに帰って来てからずっと考えていた。
だって雅紀さんてば、俺が櫻井さんに旅行に誘われたって言ったら、まるで自分のことみたいに喜んでくれてたのに…
旅行にも行かなかった上に、櫻井さんとも終わった…なんて言ったら、雅紀さんのことだから、怒りはしないけど、絶対悲しがるだろうな、って…
だから暫くは黙っていようと思ったのに…
まさかこのタイミングで聞かれるなんて…、俺は何て答えたら良いんだろう…