君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第16章 divisi
「…とし、病院…行こうね?」
朦朧とする意識の中、耳元で言われた言葉に、俺はゆっくり瞼を持ち上げる。
熱…のせいかな、潤んだ視界の中に、ここにいる筈もない翔さんの姿が映る。
…どうして?
一生懸命口を動かそうとするけど、俺の口から漏れるのは、熱を含んだ荒い吐息だけで…
ならば手だけでも…と思ってみるけど、それさえもままならなくて…
「熱高いみたいだから、一応病院行っとこうね?」
耳元で繰り返された同じ言葉に、俺は首だけを横に振って答える。
『いらな…い…』
病院なんて行かなくていい…、だから俺の傍にいて…
熱のせいなんかじゃなく、不意に熱くなった目頭に、ギュッと瞼を瞑ると、いつもよりも数倍温度の高い雫が頬を伝った。
「本当に智は泣き虫だね?」
うん…、俺本当は超が付くくらい泣き虫なんだ。
今頃気付いたの?
俺の涙を拭おうと頬に触れた手を、力なく伸ばした手で掴む。
冷たくて気持ち良い…、けど…あれ?
違う…、俺の知ってる翔さんの手は、こんなにも冷たくないし、こんなに硬くもない、もっと熱くて…柔らかで…
その手に触れただけで…触れられただけで、全てを包みこんでしまうような…、そわな大きな手なのに…
俺は固く閉じていた瞼をゆっくり持ち上げ、手の甲で何度も乱暴に擦った。
すると、さっきまで俺の視界を曇らせていた霞が徐々に晴れ、目に映る風景がハッキリしてきて…
『えっ…?』
見開いた目に飛び込んで来たのは、相変わらず爽やかな雅紀さんの、珍しく心配そうな顔だった。
『ど…して…?』
乾いた唇を動かしてみるけど、雅紀さんは翔さんじゃないから、仮に簡単な言葉であっても唇の動きを読むことは出来ない。
だから…かな、雅紀さんが首を傾げた。
仕方のないことなんだって分かってるけど、もどかしさを感じてしまう。
翔さんならきっとこんなもどかしさを感じたりはしないのに…
翔さんなら…って…
忘れなきゃって思ってるのに、まだこんなにも翔さんのことばかり考えてしまうなんて…
ダメだな、俺も…