君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第14章 dolore
「どうしたの?」
『泊まったら…だめ…?』
「えっと…、ごめん、もう一回言ってくれる?」
翔さんの顔を真っ直ぐに見られなくて、つい俯いてしまったから…かな、翔さんの指が俺の顎先にかかり、俺を上向かせた。
「言って?」
『泊まったら…だめ…かな…?』
俺は翔さんにも分かるように、ゆっくり唇を動かすと、俺の口の動きを読み取った翔さんが、一瞬困ったような顔をして、視線を窓の外へと向けた。
そして暫く窓の外を眺めてから俺を向き直り、
「明日朝送るよ…」
俺の髪をそっと撫でた。
『いい…の…?』
嬉しかった。
限られた時間かもしれないけど…、それでもまだ傍にいて良いんだ、って思ったら凄く嬉しかった。
でも、
「だって、この雨だし…」
そう言われた瞬間気付いたんだ…
もし雨が降っていなかったら…
もし雨が止んでいたら…
“だめ”…ってことなんだよね、って…
だったらハッキリ“帰れ”って言ってくれた方が、どんなにか気持ちが楽だったかわからないや…
「じゃあ、シーツ替えないとね? あ、その前に着替え…」
ベッドなんてグチャグチャでも何でも気にしないのに…
今までだってそうだったし…
「ちょっとまってて?」
翔さんが俺から離れ、リビングと寝室をウロウロと行ったり来たりを始める。
その姿を横目で見ながら、俺は虚無感みたいなのを感じていた。
ついさっきまでは心も身体も、あんなにもピッタリとくっついていた筈なのに、どうしてだろう…
手を伸ばせば届きそうなのに、今は翔さんがとても遠い。
「よし、準備出来たから…」
『え、あ、…うん』
翔さんの手が俺の背中を押して、寝室へと促してくれる。
そして、寝室の入口に差し掛かった所で、翔さんの足がピタリと止まった。
「俺はこっちで寝るから…」
翔さんは俺を見ることなく、リビングの方を振り返ると、ソファを指差した。
え、そんな…
俺は咄嗟に翔さんの腕を掴もうとした。
でもその手は空を切り…
「おやすみ」
短い一言だけを残して、リビングと寝室の間を隔てるドアが、音を立てることなく閉じられた。