君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第14章 dolore
足が…まるで接着剤で貼り付いちゃったみたいに床にくっついて、その場からただの一歩も動かすことが出来なかった。
目の前が真っ暗になって、胸だって心臓が痛くなるくらい苦しくなって…
でも不思議なことに涙は一粒だって浮かんでこなくて…
ただただ呆然とその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
こうすることが一番なんだってことは分かってる。
終わった筈の関係に妙な情けをかけられれば、それだけ未練だって残る。
翔さんもそれが分かってるから、だから俺に未練が残らないように…って、俺が未練を残さないように…って、きっと翔さんの最後の優しさなんだと思う。
でもね、翔さん…?
そんな優しさ、俺はいらない。
優しくされるくらいなら、いっそのこと冷たく突き放してくれた方が、よっぽど未練なく忘れられるのに…
俺は漸く目の前にかかった真っ黒なフィルターが晴れたのをきっかけに、崩れるようにベッドに倒れ込んだ。
疲れた…
身体もだけど、心も、元々出来損ないの頭だって、何も考えられないくらい、疲れた。
なのに、どれだけ深くベッドに身体を沈めてみても、全然眠れなくて…
枕に顔を埋めてみるけど、そこにあるのは洗剤の匂いだけで、翔さんの匂いなんて残ってなくて…
残り香一つでさえも、俺にはもう感じることも出来ないのかと思ったら、自然に涙が溢れて来た。
さっきまで泣きたくたって全然泣けなかったのに…
自分の感情がどうなってんのか、謎過ぎて余計に泣けてくる。
結局、一睡も出来ないまま朝を迎えた俺は、翔さんが干しておいてくれた自分のTシャツとハーフパンツに着替えた。
まだ少し湿ってるけど、きっとすぐ乾く。
だって窓の外には、昨日までの雨が噓のように澄みんだ青空が広がってるから…
そして、きっと俺のために用意してくれていたんだろうメモ用紙の束とペンを手に取った。
書きたい言葉は決まってるから、ペンを握った手は驚く程スムーズに動いて…
俺は、一番上の一枚だけを切り離すと、涙の跡が滲んだ枕の上にそっと置いた。