君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第14章 dolore
一人でも大丈夫だって言ったのに翔さんは強引で…
バスルームで全身を隈なく洗われて、風呂から上がった頃には二人して腹ペコで(笑)
こんなときでも時普通に腹が減る自分にちょっと呆れた。
とは言え、普段から料理なんてしない翔さんの冷蔵庫には、食料の類は何も入ってなくて…
結局、翔さんが作ってくれたカップラーメンを、カウンターテーブルに二人で並んで食べた。
色気なんてどこにもない。
もしあるとしたら…、それはお互い何も身に着けていない、ってことだろうか…
しかも翔さんときたら、まるで子供みたいにな食べ方するから、あちこちスープが跳ねては
「アチチッ…」
って、何度も飛び上がるから笑っちゃって(笑)
凄く、楽しかった…
二人で食べた最後の飯がカップラーメンだった、ってのはちょっと残念だけど。
「雨…、止まないね…」
猫舌の俺よりも先にラーメンを食べ終えた翔さんが、窓の外に視線を向けながら言う。
『…うん』
「送って行きたいんだけど、この雨だし…」
カウンターテーブルに俺を残して席を立った翔さんは、ソファの背凭れに引っ掛けてあったTシャツを頭から被り、カーテンを開け放った窓辺に立った。
その後ろ姿を見つめていると、何とも言えない寂しさが胸に込み上げて来て…
俺はラーメンが残り少なくなったところで箸を置き、静かに席を立つと、翔さんの背中に抱き付いた。
分かってるのに…
「智…?」
振り向いた翔さんは、まるでそうするのが当たり前のように、俺の口元を覗き込む。
最初はそうされるのが凄く嫌だった。
仕方のないことだと分かっていても、声が出ないことでまともに会話すら出来ない自分が惨めで、悔しくて…
でも今は違う。
通じないことも殆どだけど、それでも一生懸命に俺の言葉を読み取ってくれようとする翔さんの優しさが嬉しくて…
だから、きっとこんなことを言ったら余計に別れるのが辛くなる、ってちゃんと分かってるけど、もう少しだけその優しさに甘えていたい。